山梨県西八代郡に住む長谷川由希さん。2020年、自宅のリフォーム時に2階に手仕事の部屋を作りました。もともとは曽祖父が建てた家で7、8年前まで祖父母が暮らしていた築100年ほどの古民家です。
長谷川さんの住む地域は大正から昭和まで養蚕が盛んで、長谷川さんの祖父母も養蚕を営み、現在の仕事場の二階でもお蚕を飼っていたそうです。
家族4世代の思い出のつまった古民家の雰囲気を残しながらも生活しやすいように全面的に改修を施しました。
長谷川さんは2018年に京都造形大学(現・京都芸術大学)へ入学。
大学の授業で草木工房の山崎和樹先生の授業を受講し、草木染めについてもっと知りたいと思い、2020年春から草木工房の講座を受講しています。
さらに機織り教室を探していたところ草木工房で出会った知り合いから、染織作家いしいゆみこさんの機織り教室を教えてもらい2020年秋から通っています。
長谷川さんは2004年、オーストラリア出身のポールさんと結婚後オーストラリア・メルボルンへ渡りました。
渡豪後、現地の大学院へ入学し文化遺産学を専攻しました。オーストラリアは先住民族の歴史やイギリスの統治の時代から現在につながるまでの歴史的な遺産を大切にしていて、古い建物などを大切に保存しています。
長谷川さんは大学院の授業の一環で様々な美術館に行った際に日本の文化の展示を見る機会が多く、日本の歴史や美術の価値をオーストラリアに暮らしている時に再確認したそうです。特に州立の美術館で日本の着物の展示を見た時のその美しさはとても印象に残っているそうです。
また、日本から買い付けた中古の帯や着物を販売している人に出会い、オーストラリアの人たちが帯をテーブルセンターとして使用したり、タペストリーとして飾ったりしていることも知りました。それがとても素敵なことに思いました。
長谷川さんとポールさんは2008年に日本に戻ることになりました。日本に帰国後、長谷川さんは岐阜の恵那市にある私設の美術館で学芸員として働くことになり、岐阜に住むことになります。
勤務先は、長野から移築した板蔵が美術館の建物として使われている小さいながらも素敵な美術館でした。
そこでは美術館に飾る花を活けたり、お茶を点ててお客様に出したり、学芸員としての仕事以上の経験をしました。増築工事の際にも関わらせてもらい、日本の伝統的な建物がどのようにできているのかを間近で見ることができました。
お茶を点てることも着物を着ることも未経験だったので、茶道と着付けを習いはじめました。
恵那市の中心から離れた田んぼが広がる里山で一軒家を借り、偶然にも右隣りに住んでいたのが茶道の先生で、徒歩数分の左隣は骨董屋だったので、骨董屋で着物を買って市民講座で着付けを習い、着物を着てお茶を習うという生活だったそうです。
仕事の一環で名古屋の美術館まで掛け軸や陶芸の企画展を見に行くことも多く、日本文化の学びと暮らしが直結しているという感じでした。オーストラリアにいた頃に続き、さらに岐阜でも日本文化の再発見をしました。
その頃の長谷川さんは、着物の魅力に夢中になりいろいろな着物を着てみたいと思い名古屋のリサイクルショップでたくさん着物や帯を買い求めました。実際にたくさんの着物を手にしてみて、そのなかで自分の好みはわかりますが、肝心の素材や織りの良し悪しの判断ができないことに気づきました。
リサイクル着物はワンピースを買うかのように安価で手にはいりますが、お茶の先生から着物は何世代にわたっても受け継ぐことが出来て、色の染め替えや、洗い張りや仕立て直しもできることを教えていただき、自分の気に入った質の良い着物を持とうと思い始めます。
お金をかけて一枚の高価な着物を買うよりも、染織の技術を学ぶことにお金を使った方が賢明だし、なんだか楽しそうだと考えたそうです。
▲(左から)着物「梅薫る」絹 天然染料(梅)平織
九寸名古屋帯「梅薫る」絹 天然染料(梅)変化織
九寸名古屋帯「波に千鳥」絹 天然染料(ヤシャブシ、どんぐり)平織 緯絣
九寸名古屋帯「時満る」絹 天然染料 化学染料 緯吉野
2014年8月、長谷川さん夫妻は岐阜から故郷の山梨に戻り長谷川さんの実家で暮らしはじめました。そして、2018年、京都造形大学(現京都芸術大学)に入学し、大学では様々な講義を受け技法を学びました。その中でも織りが一番楽しくもっと知りたいし続けていきたいと思ったと言います。
染めに関して、草木染めはもちろん化学染料での染めについて学ぶことが出来ました。現在の作品作りのでは草木染めがメインですが出せない色は化学染料を使って染めています。
日本の大学院では国際関係を学びオーストラリアの大学院では文化遺産学を学んだので、美術は京都造形大学に入学するまで専門的に学んだことはありませんでした。回り回って日本文化を再認識する機会が長谷川さんを染織の世界へ導きました。ずいぶん遠回りして染織に辿り着いたなと思っているそうです。
絹糸を身近な植物で草木染めして、反物や帯を織っていきたいというテーマが長谷川さんの中にあるとのこと。まだまだ納得できる作品はできていないと話されましたが、長谷川さんは今後もこの手仕事場で自分ならではの新しい作品を作っていきたいと思っているそうです。
長谷川由希さん
Instagram ID @yuuki_textiles
【長谷川由希さんの参加する作品展】
第8回「経緯の会」織展
2024年4/21~4/27 東京都・千代田区有楽町 東京交通会館ギャラリーパールルーム
Some-Ori名古屋展
2024年10/16~10/20 愛知県・名古屋市 名古屋市民ギャラリー矢田
【取材・撮影(長谷川さん提供以外)】 遠藤ちえ (遠藤写真事務所) Instagram ID :@chie3endo