Story02 /エッセイ:羊毛作家 緒方伶香さん

【 気軽に楽しめる羊毛フェルト】




手しごとをするには、大抵の場合、道具と少しの気合が必要になります。

紡ぐにはスピンドルや紡ぎ車、

染めるには大きな鍋やザル、

編むには編み針やマーカー、

そして織るには、小さな織り木枠から大きな8枚綜絖の織り機まで。

お値段も大なり小なり、必要に応じてその都度お財布と相談です。

 

 

特に購入をためらうのは、紡ぎ車や大きな織り機ではないでしょうか。

置き場所や予算、同居人の理解など、理由は人それぞれですが、思い切りと覚悟が要ります。

ついでに自分を説得できる理由も。いつか買おうと思いながら月日が経ち、入手しそびれる人も多いのではないかと思います。私のように、経験もないうちから紡ぎ車を注文するだなんて人は、長年勤めた羊毛屋でも、あまりお目にかかったことはありませんでした。

 

 

WOOLといえば毛糸のセーターくらいしか思い浮かばなかった30代の頃、絵本店で偶然見つけたふわふわの羊毛に心うばわれたのが、この仕事を始めるきっかけになりました。

そして、「原毛の状態からはじめれば、自由自在に形作ることができる」という素材の可能性を知り、手しごとは、私の生活の一部になりました。

 

 


そんな道具事情の中、家にあるものを利用して、手軽に始められるのが羊毛フェルトです。

現在、羊毛フェルトと呼ばれるものには2種類あって、

一つはお湯(少量の弱アルカリ性洗剤を入れると作業効率が上がる)で濡らした羊毛に振動を加えてフェルト化していくもの。羊毛の持つキューティクルの特性を生かし、平面や袋状のものを作るのに便利な「水フェルト」といわれる方法です。

小さいものであれば、テーブルの上にトレイを置き、その中で作業は完結します。 

 


もう一つは刺すと羊毛がかたまる特殊な針、ニードルパンチを使って繊維同士を絡め、物理的にかためていくもの。立体を作るのに適した「ニードルフェルト」といわれる方法です。

こちらに関してはニードルパンチが必要ですが、それ以外は家にあるものでまかなえます。

私が、はじめて触れた羊毛の手しごとは「水フェルト」でした。

小さな羊毛ボールに刺繍してボタンにしたり、ティーコゼー、ティーマット、ベレー帽やルームシューズなどなど、目にも楽しく機能にも優れ、生活をうるおしてくれる物をたくさん作りました。

 

その後、ニードルパンチの登場によって立体の動物を作ることになりましたが、どちらもちょっとしたスペースがあればすぐにできるのが楽しいところ。細かいルールはなく、羊毛をかためるためのコツさえ掴めば、粘土遊びのような感覚で形作ることができるので、せっかちな人(私)にもぴったり。

 

 

洋裁や編み物など、書店の本棚に指定席が確保されている人気の手しごとに比べると、まだまだ知られていないのが残念ですが、私が始めた20年前に比べると、現在はWORKSHOPも増えていますので、是非、羊毛フェルトを試してみてはいかがでしょうか。

 

 




【プロフィール】

緒方伶香(オガタ レイコ)

 

美大卒業後、テキスタイルデザイナーを経て、東京・吉祥寺にある「アナンダ」のスタッフとして羊毛に親しむ。現在はワークショップを開催したり、羊毛のある暮らしや作品を雑誌やテレビで紹介している。

 

羊毛に関する著書多数。『きほんの糸紡ぎ』『えんぎもんフェルト』『羊毛フェルトの教科書』(誠文堂新光社)

『手のひらの動物・羊毛でつくる絶滅危惧種』『羊毛のしごと+』(主婦の友社)

Instagram @reko_1969

◉ワークショップ

@walnut_tokyo  さんで毎月開催中

◉ノマドニッター編み部

@tegamisha 主催毎月開催中

 

 

 


Photo & Text :Reiko OGATA

Profile Photo  :Chie ENDO