冬の編み物時間
デンマークにあるスカルス手芸学校での留学から帰国して、久しぶりに会った家族や友人から「何が1番良かった?」と聞かれることがよくあります。
良かったことは山ほどあるのですが、その中でひとつ挙げるとすると、それは編み物に出会えたことです。
デンマークの編み物事情
冬の長い北欧では、編み物が盛んです。
デンマークの電車内では必ずと言っていいほど編み物をしている人を見かけましたし、街角のカフェで若い女性たちがコーヒーを飲みながら編み物をする姿もよく見かけました。
クラスメイトの話によると、特にこのコロナ禍でデンマークの若い世代の中で編み物がブームになったとのこと。オンライン授業中にこっそり編み物をしている人が何人もいた…なんて可愛いエピソードも聞きました。
そんな編み物人口の多さに比例してか、街中には毛糸屋さんが数多くあります。
学校からバスで20分ほどのところにあるViborg (ビボー)という町には、徒歩10分圏内に3軒もの毛糸屋さんがあり、デンマークやアイスランド 、ノルウェーなど北欧の毛糸が数多く取り揃えられていました。
日本でも人気なデンマークの毛糸
日本で人気があるデンマークの毛糸ブランドといえば1977年に生まれたIsager yarn (イサガーヤーン)があります。
Isager yarnはデンマークニット界のパイオニアであるÅse Lund Jensen (オーセ・ルンド・イエンセン)と、Isager yarnの設立者であるMarianne Isager (マリアンヌ・イサガー)が、スカルス手芸学校で出会ったことから始まりました。
今では世界中で愛されている高品質な毛糸ブランドで、自然からインスピレーションを得た落ち着いた色の毛糸が特徴です。
留学中には、Skive(スキーべ)という町にあるIsager yarnの紡績工場に見学に行く機会がありました。
羊毛をカーディングし、糸を紡ぎ、染色する。全ての工程を一か所で行いながら丁寧に仕上げられた糸は、デンマークの小さな工場から世界中に届けられています。
日本でも色々な毛糸屋さんで取り扱いがありますので、見つけた際にはぜひデンマークの糸の魅力を体験してみてください。
また、Isagerではパターンや本の販売もしています。2021年に発売されたグローブとミトンの本「Handcraft」は、Marianne Isagerの娘Helga Isager (ヘルガ・イサガー)とスカルス手芸学校で手編みを教えているHelga Jóna(ヘルガ・ヨーナ)の共同著書です。
(ちなみに挿絵はスカルス手芸学校の日本人卒業生Toshikoさんが担当しています!)
編み方の解説や、素敵なパターンが数多く紹介されていますので、気になる方はぜひお手にとってみてください。
私と編み物
私はスカルス手芸学校の授業ではじめて編み物を習いました。
学校では編み針の持ち方から丁寧に教えてもらったのですが、慣れない英語で習うはじめての編み物にとても苦戦しました。
少し進んでは編み目を落とし、気が付くと目数が増え…。最初の数ヶ月はとにかく編み物が苦手でした。
そんな私の苦手意識が変化したのは、クラスメイトたちが編みかけの作品を勢いよくほどく姿を頻繁に目にしていたからです。
間違えたり気に入らなくて編み直す時、『失敗したから振り出しに戻っている』のではなく、糸をほどいている時間も含めて完成に向けて『進んでいる』と思えるようになったことで、編み物へのハードルがぐっと下がりました。
間違えても、また編み直せば良い。早く編めなくても自分のペースで楽しめば良いと思うことで編み物がだんだんと好きになりました。
編み物の良いところは、その手軽さにあると思います。
4年間手織りをしてきた私にとって、編み針と毛糸さえあればいつでもどこでも編める手軽さはとても魅力的でした。
おしゃべりをしながら、テレビをみながら、ながら編み」ができてしまうのも良いところ。
そして1本の糸からセーターや手袋が生まれ、自分が身に付けられるものになるということは、とても達成感があります。
好きなデザイン、好きな色、好きな糸で時間をかけて編んだ作品は、既製品とは違う自分だけのお気に入りになります。
編み物をやってみたい、挫折したけれどもう一度挑戦したいと思っている方も多いのではないでしょうか。
今はわかりやすいYouTube動画などもある時代ですので、まずは編み針とお気に入りの毛糸を用意して、はじめの一歩を踏み出してみてください。
苦手を抜けた先には癒しの編み物時間が待っていますよ。
【筆者プロフィール】長澤舞香(ナガサワ マイカ)
美術系の学科を卒業後、アパレル企業に勤務。
2017年に手織工房じょうたにて「さをり織り」と出会い手織り作品の制作をはじめる。
2022年からデンマークのスカルス手芸学校に半年間留学し、手織り、編み物、刺繍など手芸全般を学ぶ。
現在は手芸店で働きながら、atelier cotton houseとして作品制作をしている。
Instagram/ @ateliercottonhouse
Photo & Text :Maika NAGASAWA
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