三嶋 紗織さん
楮蒸し
ある朝目覚めて窓を開けるとあたり一面真っ白な雪で覆われていました。
西日本でありながら、冬の寒さがなかなか厳しい木頭。
実はその寒さも太布づくりに欠かせない大切な要素のひとつ。

太布保存会では毎年1月に“楮蒸し”(かじむし)を行います。
(※木頭では楮のことを「こうぞ」ではなく「かじ」と呼びます。)
落葉した楮を収穫し、蒸し剥ぎした樹皮を太布の素材へと加工するのです。

蒸し剥ぎまでは和紙づくりとほぼ同じですが、太布の場合その後下記の工程をたどります。
・樹皮を木灰でほどよく煮る
・木槌で叩き、籾殻を踏みつける
・一晩川に晒す
・河原に引き上げて1~2日凍らせる
・軒下で2ヶ月ほど完全に乾かす
楮蒸しは当日だけでなく、事前準備から地域の方々が尽力して下支えしてくださることで成立する、とても大変な作業です。
それぞれの工程でその“加減”が太布の質へと直結します。
先日、最年長の榎谷さんが干した楮を手に取り「今年のんはやわらこうにできたな。きっと灰汁がキツめだったせいやな。今年は楮が太かったけんな、濃いめにしたんよ」と話してくれました。

その年の楮の出来栄えによって、木灰の量を調節していたようです。
煮る際にそばで見ていましたがそこまで考えていらしたとは。
木灰が多すぎても、繊維が脆くなってしまうのでその加減は本当に大切なのです。
川から引き上げて1〜2晩凍らせる過程も繊維を柔らかくするのにとても大切。
今年、1晩目の気温が高めだった為、榎谷さんの判断でもう一晩置くことに。
この工程でちゃんと凍らせないと、繊維が硬い仕上がりになってしまうそう。
温暖化の影響か、これまで氷点下になっていた地域でも今年は凍らなくて困っている、とのお話を聞くこともありました。太布づくりに寒さはとても重要な役割を果たしています。
こうしてみると、太布づくりは本当に多面的な要素が関係しており、どうやら私が学べきことは無限にありそうです。太布づくりを本当に理解するまでには何年も、何十年もかかるのだろうなとその道のりの長さを感じました。でもそれがまた奥深くて面白いとも感じています。
太布織がいつから存在していたのか明確にはわかっていませんが、もしかしたら縄文時代からではないかとも言われています。途方もない大昔から脈々と営まれてきた太布づくりに関われていることに感謝感謝です。太布づくりのハイライトである楮蒸しを経て、これからも地域のつながりを大切にしながら、私にできることをやっていこうとの気持ちを新たにしています。

【三嶋紗織さん プロフィール】
文系大学卒業後、一般企業に勤務。
2018年から2021年までスウェーデンにある手工芸学校セーテルグレンタンにて
伝統的な手織りと縫製を学ぶ。
2023年から徳島県那賀町の地域おこし協力隊に就任 .
旧木頭村にて太布織を学びながら活動中