Story13 /エッセイ:染織家 吉野 綾さん


【 七夕 たなばた 棚機 】

 

五節句の中でも七夕は、

染織に関わる者には特別なものがありますが、

私の出身の平塚では七夕祭りが開催されていたので、

染織に関わる前からも親しみのあるものでした。

からくりのある豪華な竹飾りを見上げ歩き、

長崎屋の恐竜が叫び動く光景は今も記憶に残っています。

 

確か中学生の頃だったか、

祖母と叔父に連れられて遠縁のいる仙台へ行きました。

ちょうど仙台七夕祭りの頃で、

目にした時は衝撃を受けました。

見慣れているはずの大きな吹き流しの竹飾りなのに、

雰囲気が全く違うのです。

近づくと素材が和紙だということがわかりました。

アーケード内だから紙でも大丈夫だと、

確か叔父が説明してくれました。

平塚は空の下なので、

雨に濡れても大丈夫なようにプラスチック製で

吹き流しの色もとても鮮やかだったのです。

 

素材が変われば同じ形でも雰囲気は全く変わる、

そんなことを強く実感して記憶に残っているのはこの時で、

今、こうして素材と向き合う日々のタネは

図らずも七夕にあったのかもしれません。

 

 

さて。七夕。

しちせき、と読むはずが、当て字のように、たなばたと読むのは織り機のことを棚機と言い、それを織る女を棚機女(たなばたつめ)と言ったからではないかとされています。

在原業平も、織姫のことを たなばたつめ と詠んでいます。

 

  狩り暮らし たなばたつめに 宿からむ

  天の河原に 我は来にけり       古今集

 

惟喬親王のお供で狩りに出かけ、

天の河という地で酒宴をしたときに親王に命ぜられ詠んだ歌。

狩りをしていたら日暮れに

棚機女に宿を借りよう 天の川にきてしまったのだから

 

さすがです。

黄昏時の艶やかに美しい景色が目の前に広がります。

これに、紀有常の返歌が

 

  ひととせに ひとたび来ます 君待てば

   宿かす人も あらじとぞ思ふ

 

一年に一度の人を待つ人が 

我々の内に宿をかす人がいるはずもないさ

と水を差していて、違いない!みな振られるな!と、

きっと笑いに包まれたであろうその景色までも思い浮かびます。

 

 

今年二〇二四年の旧暦の七夕は八月十日です。

梅雨も明けて空に星もよく見える頃と思います。

何に思いを馳せ、願いましょうか。

 

私は染め織りの技術向上の一択です。。

 


【プロフィール】

1972年 神奈川県生まれ。現在同県二宮町在住

1996年 大塚テキスタイルデザイン専門学校II部ウィービング科にて織りを学ぶ

1999年〜2010年まで個展、イベント出展など、カラードウールを活かした毛織物を制作、展示を行う。

2011年〜2013年まで、

家族の都合でサンフランシスコベイエリアで暮らし、

その間、カード織りとダマスク織りに取り組む。

2014年〜現在、

ダマスク織りで毛織物と絹織物を制作し、展示を行う。

 


Photo & Text :Aya YOSHINO

Profile photo :  Chie ENDO