旅したい気持ちの夏に 「ほんかく商店」野村智子
夏真っ盛りの7月末です。なんとなく、今年こそは少し開放的な気持ちで夏を過ごせるかもしれないと淡い期待をしていましたが、2020年代の時代の波は、そんなに甘くはないのでした。相変わらず、気持ちが忙しない日々です。
少し前に、嵐のように風の強い夜があり、翌朝、玄関先で鳥のヒナが息絶えていました。上を見ると、とても背が高いヒバの木の、てっぺん近くの枝に引っかかった鳥の巣が見えました。強風に吹かれて巣が傾いて、そこから落ちてしまったのだと思います。私は鳥が巣をつくっていたことすら知らず、死んでしまったヒナが何の鳥なのかも分かりませんでした。
2週間ほど経ってようやく地面に落ちてきた空っぽになった巣は、たくさんの小枝や枯葉にビニール紐などの人工素材も織り込まれた、軽いけれども密度の高いものでした。なかなか時間も労力もかかったであろう棲み家が、命を育む半ばに風で飛ばされ足元に転がっているのを見て、勝手にやるせない気持ちになりましたが、野生に生きる鳥にとっては日常茶飯事なのかもしれません。それにしても上手につくるものだなあと感心しながら、次は嵐の夜を乗り切れる場所に巣ができることを願い、ヒナを埋めたあたりに空っぽの巣を置きました。
そんなことをしていた夏の初め、ときどき手にとってぱらぱらとめくっていたのが、友部正人さんの詩集です。2015年にナナロク社から発行された、『バス停に立ち宇宙船を待つ』。タイトルも装丁も不思議な浮遊感があって、ちょっと一息つきたいときにパッと開いた1、2節を読んで、気持ちを散歩させるのが心地よかったです。ニューヨークにいた友部さんの日記をお裾分けしてもらっているような親密さもあり、嬉しい気持ちにもなる一冊です。
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【プロフィール】
野村智子
1979年生まれ。編集・ライター・企画業。地域に伝わる手仕事やそこから生まれた産業、文化、現代の地域が抱える課題やそれにまつわる取り組みなどに携わる。本や古物を扱う「ほんかく商店」をイベントにて不定期出店。
Instagram @nomuratomoko_himazine