なんだかザワザワする新年度に 「ほんかく商店」野村智子
子どもの頃から本屋や図書館がとても身近な存在でした。毎週日曜日に通った家の近くの図書館と、市内を巡回する移動図書館。最寄り駅をはさんであっち側とこっち側にあった “町の本屋さん”。それから、小さなT字路の突き当たりにあった昔ながらの古本屋。
残念なことに、私が育ったその町には、いつの間にか本屋はひとつもなくなってしまいましたが、私の原風景はそんな本屋のある町の景色かもしれません。
さて、世界が落ち着かないうちに新年度が始まってしまいました。世の中のニュースや身のまわりの変化に気持ちがザワザワしているときに、なんとなく手に取りたくなるのが白洲正子の『鶴川日記』です。第2次世界大戦の頃に白洲家が転居した町田市鶴川の一軒家。茅葺き屋根の葺き替えにはじまり、野良仕事や雑木林の薪炭づくり、毎年の行事やきまった時期に訪れる旅職人の手工芸など、農村での暮らしはさまざまな人たちの手仕事により成り立っていました。そんな日々の情景や人の営みが、鶴川日記には綴られています。
戦争が起きてもパンデミックが起きても、生きているかぎり暮らしは続いていきます。ふと身のまわりの風景を眺め、心豊かに暮らすことに労を惜しまなかった著者のように、日々のなかの美を見つけ、人のおもしろさを見つめ、暮らしに愛を注ぎたくなるのでした。
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【プロフィール】
野村智子
1979年生まれ。編集・ライター・企画業。地域に伝わる手仕事やそこから生まれた産業、文化、現代の地域が抱える課題やそれにまつわる取り組みなどに携わる。本や古物を扱う「ほんかく商店」をイベントにて不定期出店。
Instagram @nomuratomoko_himazine